手天童子 (1) (講談社漫画文庫)
もはや説明するまでもなく『手天童子』は伝奇的な物語が少年マンガに定着する先駆的な役割を果たした作品の一つだろう。だが、超常的な能力に目覚めた少年が、彼をつけねらう邪教カルト集団との戦いに巻き込まれるとか、過去や未来の時間移動とか、異空間の鬼の世界とかいうことを無視すると、思春期を迎えて「親」との関係にぎくしゃくするものを感じた少年が、家の外に出て、彼女を作ってから家に帰ってきて両親と和解する、それだけの話だ。それだけ、それだけが凄い。
大風呂敷の方に話を戻しても、未来世界の宇宙空間の果てに発見された、滅びた鬼の惑星ですらが、最終的に親子関係の葛藤に端を発することが明らかにされる。過去の世界においては、主人公手天童子郎の名前のもとになった「酒呑童子伝説」について、トリッキーに語られる。こうして過去や未来にまで飛び跳ねた上で、少年はお互いの葛藤を乗り越えた上で、真の親子として関係を結びなおす。だからこそ、ラストはしっかりと定型を踏んで冒頭のシーンを再演するのだ。
これらの時間移動も異空間の現出も、すべてはある人物の情念から発している。この論理における原因と結果は自らの尾を飲む蛇の形で入り組んでいるのだが、そのような閉塞した内面により生じた異空間を打ち破るために、きわめて物理的な手段(ハンマー!)が用いられる。ここから並行して起こる異空間の崩壊はまさにクライマックスにふさわしい。
そして、物語の当初から、『手天童子』はこの場面の後に続くラストへ一直線に進んできたことを読者ははっきりと思い知らされることになる。永井豪の諸作品には他に見えないこの構成力において、わたしは『手天童子』をSFのベストと考える。
ということで、あとは軽い話。子郎を守るために白鳥勇介に集められた(というだけではなかったが)メンバーはスターシステムで、コヤヤシや直次郎が出てきますが、リッキー(無双力)もその一人。正直、ヒロインの白鳥美雪よりも魅力的だと思うのだけれど(特に邪腕防に投げられてお尻が子郎に乗っかってお互い顔を赤らめるとことかね)、子郎を守って最期を迎えます。
リッキーはこの後も『バイオレンス・ジャック』の「関東地獄街編」に登場したりしますが、やはりアイラ・ムーを守って……(泣)豪ちゃんはリッキーを幸せにしてあげてくださいと思います。未読の作品に『心霊探偵オカルト団』というのがあって、ここにもリッキーが登場するというか、これが永井豪世界への初登場のようなのですが、調べている限りではなんとなく死なずに済みそうな感じがするので、そのうち読みます。
あと、栗本薫が『魔界水滸伝』のあとがきで言っていたと思うのだけど、安西雄介のキャラクターの原型として白鳥勇介があるみたいですね。納得というか、あれ、あくまで勇介であって、早乙女門土ではないのかという。ちなみにわたしは小学生の時に『手天童子』を立ち読みしてて「牙の草原」のシーンがあまりに怖くて、その先が読めなくなり、読み通すのに豪華愛蔵版が刊行される高校生になるのを待たねばならなかったという、まあトラウマですよ、勇介は。
手天童子 (4) (講談社漫画文庫)
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「えっ!?」と声出ちゃいましたよw 思わず単行本のページ、確認のために戻しちゃって……
残虐描写とは別の意味でトラウマになる
確認のために読みかえし、そういうことだったかと膝をたたく、やはり読むことの楽しみではないでしょうか。流浪牙さんから驚きの声を引き出したこと、作者冥利に尽きると言えますね。