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2013年10月17日

『ホームズ鬼譚〜異次元の色彩』山田正紀 北原尚彦 フーゴ・ハル

 ラヴクラフト「異次元からの色彩」をテキストにシャーロック・ホームズも絡めつつ三人の作家が競作というアンソロジー。トークショーイベントへの参加を探ったため購入が遅くなったが、結局参加出来なかったので、ネットで注文して購入。読むタイミングはちょっと遅くなってしまった。しかし、25年前の自分に「山田正紀とフーゴ・ハルさんがクトゥルーで書くぞ」と教えてやっても信じないだろうなぁ。

ホームズ鬼譚~異次元の色彩 (The Cthulhu Mythos Files 8)
ホームズ鬼譚~異次元の色彩 (The Cthulhu Mythos Files 8)

「宇宙からの色の研究」山田正紀
 分岐した?イギリスの現代史を舞台にホームズ殺しの咎で裁判を受けるコナン・ドイルという導入から、あの探偵コンビが再結成で不可能犯罪の解明に挑むと思いきや一転してはぐれ悪魔超人コンビになるという怒涛の展開。個々の登場人物について触れることは興をそいでしまうので避けるけれど(一人ひとり、こんな形で登場するのかと驚いてほしい)、この作品にもやはりしっかりと山田正紀印がほどこされている。山田世界では神に拳銃で、クトゥルーにメスで闘いを挑むのだ。
 すでに読んだ方々はいろいろな作品を連想して名前を挙げていて、どれも納得なんだけど、わたしはなぜか何十年も読み返していない「コルクの部屋からなぜ逃げる」を思い出したんだぜ。


「バスカヴィル家の怪魔」北原尚彦
 こちらは『バスカヴィル家の犬』をベースにしたオーソドックスなパスティーシュ。わたしはシャーロック・ホームズにはそれほど馴染みがなくて、本家の話も概要くらいしか覚えていなかったので、「バスカヴィル」に関しては完全にこちらの方のストーリーで上書きされてしまった気がする。それくらい自然に各要素が絡み合っていて、北原氏の小説は初めて読んだのだが、見事なものだと思った。


「バーナム二世事件」フーゴ・ハル
 まず、謎解き部分に関しては合理的な思考方法で解決するつくりになっている。これは当然で、ゲームブックで推理による回答を求める以上は、あまり超常的な結論にすることは出来ない。ここはあくまで本格的にフェアな思考方法で答えに到達することが求められているわけで、本作はその条件を満たしている。
 その上で、神秘的な事件の合理的な解決の、その外枠にさらなる真の解決があるという、これもオーソドックスなつくりなのだけれど、真の解決に導く線が、書物としてのゲームブックという形式と不可分になっている。これは震えが来ます。

 メインの部分でのゲームとしての形式は、一見するとリンクを使ってHTMLでも作れそうな気がするんだけど、最後のしかけの驚きはページジャンプするスタイルでは絶対再現できないものになっている。これはゲームブックなんですよ。
 ゲームブックは構造上、ページを前後しながら読まなければならないので、目的のパラグラフを読む過程で、どうしても他のページやパラグラフは視界をかすめざるを得ない。そしてページをめくっているうちになんとなく重要そうなパラグラフは見当がついてくる。一つのパラグラフに何ページもかけていたり、挿絵があったりすると「ここは重要な情報があるんだな」とは自然に判断するだろう。しかし、基本的に初回プレイの読者は慎み深く「ちらりと見えても読まなかったことにする」という心理的な操作を半ば無意識に行ない、プレイの流れの中で、いつかそのパラグラフへの明示的な指示(○○へ行け)に従うことを期待して読み続けることになる。今回はそこに仕掛けが施されていて、不穏なものの気配を抑圧してきたというこの操作が、最後に破裂するというクライマックスに関わってくるのだ。

『都市と都市』が出た後、フーゴ・ハルさんと少しやり取りさせてもらう機会があったんだけど、「プレイの中に約束事の遵守と逸脱のせめぎあい」を見たいなんて要望も出してて、これは本作で満たしてもらったようなとこがある。ゲームブックにおける形式と内容の日本人作家のアプローチには三つの極があって、ひとりが鈴木直人(『ドルアーガ三部作』『パンタクル』)、ひとりが思緒雄二(『送り雛は瑠璃色の』「夢草枕、歌枕」)、そして最後のひとりがフーゴ・ハルというのがわたしの持論なのだが、その代表的なタイトルとして挙げるにふさわしい傑作。
 ともあれ本作は「フーゴ・ハルが牙をむいた」という印象が強く、正直すこし怖いとすら思った。これはいろいろな人に読まれるといいなぁ。次回作も楽しみだ。

 本書を読んだ人にはゲームブックには不慣れな人も多く、面食らうことも多かったかもしれないけれど、こういう形でアンソロジーで小説と合わせて収録されるというのは、やはりなかなかいいことかも。んー、二見から出てたホームズもの、読んでなかったんだけど欲しくなってしまったな。
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posted by すける at 21:52 | Comment(0) | TrackBack(0) | ゲームブック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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