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2014年11月07日

『2312 太陽系動乱』キム・スタンリー・ロビンスン

 キム・スタンリー・ロビンスンの長編が出たぞ。

2312 太陽系動乱〈上〉 (創元SF文庫)
2312 太陽系動乱〈上〉 (創元SF文庫)

 この作品はノンシリーズものであるけれども、それはこれまで書いてきたものと違う傾向だからというわけではなく、むしろロビンスンが書いてきた様々なテーマを中間的に集大成するものだからだと見てもいいかもしれない。
 日本の読者としては、ロビンスンというとまず火星となってしまうが、本作では火星のみならず、水星、金星、土製の衛星までテラフォーミングが進んでいる中で、科学的課題とは別の問題が山積する地球のテラフォーミングに手をかけるところが面白く、ここをメインで読みたかった気持ちもあるのだが、それはScience in the Capital を読むべきというところだろうか。
 地球のテラフォーミングは、積み重ねてきた社会的な拘束の慣性や既得権益などが桎梏となるのだが、主人公の社会改良家の側の独善性や拙速さもよい意味で簡単な共感を拒否するように描かれており、『レッド・マーズ』を思い出しつつ興味深く感じた。

 また主人公のスワンは芸術家であり「ゴールズワージー」という環境芸術や「アブラモヴィッチ」という身体芸術(それぞれアンディ・ゴールズワージーとマリーナ・アブラモヴィッチが普通名詞化したものと思われる)にたずさわってきた経歴の持ち主だが、これは風景と主体性が接する境界面を鋭く意識したものであり、『南極大陸』の風水師が極限の風景を解釈していったことと対照的に、風景の中に存在を記していくことなのだ。とりわけロビンスンの作品では、テラフォーミングにからめながらこのような風景と人間との関係性や、そこで生じる通過儀礼という側面に目を向けていくのも楽しいことである。異星をただ居住可能な空間とするのではなく、そこで人間の精神が涵養され成長していく場となること、ロビンスンの作品におけるテラフォーミングはこのような側面もはらんでいる。

 個人的にツボに入ったのは土星の外交官がドアーズの'People are strange'の一節を口ずさむところで、人類が太陽系をうろちょろしてる間はドアーズの楽曲は生命力を保っているようだ。もっとも、ローレンス・ワット=エヴァンズ『ナイトサイド・シティ』でも主人公がドアーズを2曲聞いてたしね。あれは恒星間飛行してる世界だったか。また、「アンシブル」という通信装置についてもちらっと言及されていたりと、過去のSF作品からの遊びもあるので、そうしたところを拾っていくのも楽しいだろう。
 また、渡邊利道氏による解説が『Webミステリーズ!』に転載されているのでそちらもぜひ読んでほしい(http://www.webmysteries.jp/sf/watanabe1409.html)。

 結論、さあ『ブルー・マーズ』を出しましょう!

2312 太陽系動乱〈下〉 (創元SF文庫)
2312 太陽系動乱〈下〉 (創元SF文庫)
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posted by すける at 22:13 | Comment(0) | TrackBack(0) | SF | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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