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2016年04月23日

『怪帝ナポレオン三世 第二帝政全史』鹿島茂

 先日の『芸術と策謀のパリ―ナポレオン三世時代の怪しい男たち』からの流れでナポレオン三世ものを。サン・シモン主義の影響による産業振興と、帝政の力の根拠があくまで選挙にあったことあたりをばっと見る第二帝政の概説としてはまずまず。

怪帝ナポレオン三世 第二帝政全史 (講談社学術文庫)
怪帝ナポレオン三世 第二帝政全史 (講談社学術文庫)

 オスマンプランによるパリ改造や百貨店、鉄道等の第二帝政下の産業振興についてはよく知られているが、これを支えるものとしてクレディ・モビリエというサン・シモン主義者のペレール兄弟により設立された動的な金融機関を支援して保守的な金融機関に対抗させたとか、関税の引き下げで自由貿易を推進したとか、経済政策面で有機的に手を打っているのは個別の分野だけでなくまとめて読むとよく感じられる。クレディ・モビリエについては守旧派のオート・バンクもその拡大を無視できず、同分野に参入して金融戦争が起こり、最終的にはペレール兄弟の退場をまねくが、これによって生じた金融上の変化は以前の時代に戻ることはなかったということがより重要だろう。

 また、ゾラの『大地』は個人的な視点から読むと農家の遺産争いをめぐるいざこざの物語ということになるが、共同体から見ると第二帝政下で農産物の自由化にともって村内の選挙を通じて権力構造が転化していくという姿を追えるという面白味がある。このような視点は経済状勢の変化が政治の地図を変えていくという流れの読みを支えてくれるだろう。

 内政面では、混乱してる時期には相手にイニシアチブを渡せばミスを犯しそうだと思えば積極的に手渡しするという方針を採用出来るタイプで、第二共和政化では議員辞職して六月蜂起の弾圧に関わらずに済ませたり、普通選挙の制限に大統領としては反対というポーズを見せながら議会に押し切られるという姿を印象付けるあたりの巧妙さが目立つ。これが1851年のクーデターのときに利いて、国民議会を守るためにバリケードに立つという民衆がいなくなる。自分たちの選挙権を制限したり、大砲を打ち込んできたのは第二共和政の議員たちで、そんなもののために身を張る人間はいない。この振る舞いはタイミングが違うが第三共和政下のパリ・コミューンでも再現していると言えるだろう。ナポレオン三世の時代とは六月蜂起以後・パリ・コミューン以前と区分できる気もする。
 蜂起する民衆と共和政との一致が決定的に崩れたのは六月蜂起の弾圧によってであり、このことが第二帝政の力の源泉のひとつであったのだ。また注意深く見るべきは、第二帝政下の解体後、ブルボン派であれオルレアン派であれフランスにおいて王政は復活していないことで、帝政は崩れても第二復古王政はなかったということだ。ここでは歴史は繰り返さなかったのであり、20年ほどの期間に第二帝政は思いのほか王党派の力を削いでいたことが推測される。これもまた以前の時代に戻ることのない一線を引いたと見ることも出来るだろう。

 一方では戦争は驚くほど下手で、物資と人員の配置が滅茶苦茶というのは、一般的に成功と見られているクリミア戦争のころから一貫しているようだ。ある時期までは相手も同等の下手を打ってお付き合いしてくれたが、イタリア統一への介入で対立したオーストリアとの紛争を横目で見ていたプロシアに、普墺戦争、普仏戦争と各個撃破されることになる。普墺戦争も普仏戦争もプロシアの優れたロジスティックスが決めた要素が強い。産業面では近代化に向けてサン・シモン主義者を中心にまずまずの人材登用をしてきたナポレオン三世だが、軍事面ではまったく人を得なかった。これは元来の基盤の不安定さも大きく影響したのだろう。

 ゾラ『獲物の分け前』では舞台として温室がクローズアップされていたのだけれど、パリ中央市場の当初想定された要塞風の外観を嫌ったナポレオン三世がガラス張りの温室風の建築を採用したというの聞くと、これは第二帝政風の建造物を直接反映していたんだなと分かる。

 疑問点としては評価が低いとされるナポレオン三世の復権のための筆が過ぎてひいきの引き倒しになっている部分があり、これは歴史的記述としては不要という部分もある。「ナポレオン三世が労働運動の父である」炭鉱ストライキに軍隊を送り込むにいたった状況からは無理があるだろう。視野を広げるためにはこの概説で満足するのではなく、個別の分野のより広範な立場からなる史料を逍遥しておきたい。

タグ:第二帝政
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posted by すける at 22:11 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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