1. わたしがSF休みにしたこと 
  2. マンガ
  3. 法正と張翼 『蒼天航路』王欣太(原案・李學仁) 

2017年04月27日

法正と張翼 『蒼天航路』王欣太(原案・李學仁) 

 いつかは書きたいと思っていつつも長尺過ぎてどう手をつければよいのかと放置していた『蒼天航路』ですが、いろいろ思うところもあり、まずは33巻から始めてみたいと思います。

蒼天航路(33) (モーニングコミックス)


C-V0REPVoAEsedT.jpg


 法正が初登場の濃いイケメンに「地図を写したか」と問うに、青年が「刻まれた知略も」と返すシーンですね。地図とはある知性が抽象化されたものであり、青年は表面的な図像だけではなく、なによりもその知性を理解したのだというやりとりのこの場面は、『蒼天航路』本編の外まで生命力を持っています。

 ここで問う側の法正とは劉備入蜀の過程であらたに彼に仕えることになる参謀です。彼は対曹操戦では惨敗続きの劉備軍を率いるや漢中争奪戦であざやかな完勝に導きます。三国志演義では智謀面での功績は諸葛亮に一本化されるので空気感もありますが、『蒼天航路』での法正はとても印象的に描かれています。
IMG_20170426_130710.jpg

IMG_20170426_130757.jpg

IMG_20170426_131122.jpg

 (画像ガタガタしててすいません)地図に刻まれたのはこうした「法正の軍略」なわけです。では法正の智謀を写したという青年は誰かと言えば、これは張翼という人物です。

 ここからやや脱線。張翼には正史での経歴に漢中戦に参加した経歴は書かれていませんが、裴松之が注に引く「趙雲別伝」では趙雲の指揮下にある姿が描かれています。蒼天はここを参考にしてるはず。で「趙雲別伝」というのは、趙雲の遺族が彼の事績を讃えるためにまとめたものということで、史料の信用度としてはどうかと見られているものではあります。これについては「いつか書きたい『三国志』」さんの『三国志集解』趙雲の項の翻訳を参照してください。ネットにある三国志人名事典の類を見ると張翼の漢中での活動については「趙雲別伝」によると注記していたり、あるいは記述で触れていないなど、みなさん考えながら扱っている記事が多いなという印象を受けますね。

 とはいえ『蒼天航路』はここでは張翼が漢中にいるという記述を採用するのであり、それはこの青年がこの場面(219年)で法正から受け継いだ知略を抱いて、蜀の滅亡(263年)に至るまでおよそ45年を魏と戦いつづけることになるという『蒼天航路』本編のスパンを越えた射程をたった二つのコマで暗示しうるからです。
張翼は最終的には左車騎将軍まで官位を上げて、右車騎将軍の廖化と並んで蜀の最後を支え、「華陽国志」によれば「前に王平・句扶あり、後に張翼・廖化あり」と讃えられるようになります。廖化も関羽とのからみでやはり蒼天に登場し(廖化と関羽の関係は正史に記述あり)、関羽の武を廖化が、法正の知を張翼が蜀において継承していくというラインがおぼろげに提示されているわけです。こうした読み方を可能にしてくれることが『蒼天航路』を丹念に読む楽しみの一つだと言えるでしょう。
タグ:三国志
web拍手 by FC2
posted by すける at 01:07 | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック