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2018年09月11日

『バットランド』山田正紀

 アンソロジー『NOVA4』に収録されていた表題作を含めた山田正紀の中短編集が刊行された。 そう『バットランド』だ。

バットランド
バットランド


 『NOVA4』集中、いちばん野心的というか、危ない橋を渡ってるように見えるのが「バットランド」の山田正紀だというのは、わたしの贔屓目だけではなかったはずだ。ベテランらしい円熟した技巧だとか、そういうこととはまったく関係ないのがすばらしい。『神獣聖戦 Perfect Edition』の感想にも書いたことだが、山田正紀の資質には、最新の科学的知見に関する用語を、厳密な意味において展開しようというよりは、字面からの表面的なイメージに強引なドライブをかけて、アナロジーというにも無理があるような理屈を立てるような面がある。法月綸太郎の「バベルの牢獄」では「科学技術系の専門用語を文学的なレトリックでねじ曲げある種の隠語として使用する」「ソーカライズ」という文章が出てきて苦笑いをこらえることは難しい。しかしこれはSFでだけは有効に働くのだと思いたい。
 そして、様々な要素を強引な比喩やアナロジーで結び付けた作品の中で、その主人公は冒頭に提示される母子の写真と自分との関係を思いだすことが出来ない。記憶を失った主人公と写真とをついに媒介させた力が何だったのかが見えたときに、あらためて『最後の敵』のような作品が立ち上がってくることになるだろう。
 また、エネルギー保存則の破綻を救うために量子もつれを介してブラックホールから「情報」を救い出すというミッション・インポッシブルに挑む重要な相方が、初期中篇「襲撃のメロディ」を思い出させる(これは『エイダ』にもあらわれるのだが)。復刊した『贋作ゲーム』杉江松恋の解説は、山田正紀の「襲撃」というテーマを(広義の)ミステリ方面の作品から述べているが、これはSFでも非常に重要な要素なのだ。
 反復して、幾度もいくたびも、彼らはダクトを抜け、あるいはキャットウォークを渡りながら襲撃を続けている。そして
風圧に耐えて、必死に体勢を整えるコウモリの姿が、チラリと視界の隅に映った。ヨーロッパの伝説は本当だった。彼は変身した魔女なのだ(『襲撃のメロディ』)



 表題作の他にも四篇、「お悔やみなされますな晴姫様、と竹拓衆は云った」は山田正紀時間SFの系譜であり、タイトルはむろんハーラン・エリスンから来ているが、エリスンらしい怒りの情念を裏返した共感性を欠いた反逆の天使は、むしろ「雲の中の悪魔」で描かれる。ここで示されている世界が「別の世界は可能かもしれない。」で予感されているものなのかどうなのか。もっとも短い巻頭の「コンセスター」も人間の感覚器官と認識のテーマで、人類家畜テーマという『神狩り』以来というか、エリック・フランク・ラッセルの『超生命ヴァイトン』淵源のものだ。山田正紀は同じ歌をうたい続けてている、そしてその歌はいつもそのたびに新しい。



最後の敵 (河出文庫)
最後の敵 (河出文庫)

襲撃のメロディ (ハヤカワ文庫 JA 83)
襲撃のメロディ (ハヤカワ文庫 JA 83)


タグ:山田正紀
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posted by すける at 18:47 | Comment(0) | SF | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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