2014年01月25日

「二階の住人とその時代‐転形期のサブカルチャー私史‐」第23回 大塚英志

 スタジオジブリの発行するフリーペーパー『熱風』の2013年12月、『かぐや姫の物語』特集号を入手。最大の目当ては大塚英志連載の「二階の住人とその時代‐転形期のサブカルチャー私史‐」のうち「新井素子やふくやまけいこの登場の意味」という文章。

 大塚が新井素子について触れた文章は過去に読んだことがあるが、ふくやまけいこについては、『「おたく」の精神史 一九八〇年代論』で、『アップル・パイ』に執筆陣に列挙する名前の一人として扱う以上に言及したものは、わたしが不勉強なだけかもしれないがこれまで目にしたことがなかった。大塚がふくやまさんをどのように正面から論じるのかが気になるところだった。

 新井素子を、基本的教養として少女マンガやアニメを受容してきた最初の世代の文学少女として定義するのは、これまでの大塚の発言と変わらない。「ルパンのような小説を書きたい」という新井の発言を取り上げることが『キャラクター小説の作り方』の導入部になっていた。ここでは「『現実』を写生せずに『アニメ』や『マンガ』を写生することで新しい小説を最初にこの国で自覚的に作ろうとした」と、新井の新しさを規定していたのだ。
 そして、新井の『あたしの中の……』と橋本治『桃尻娘』や、栗本薫『ぼくらの時代』が同年の作品であることを指摘しつつ、新井の文体は彼らとも違うことを大塚は指摘する(ここは単行本化するなら加筆して詳しく書いてほしい)。

 このような教養の変化をマンガの方面で展開した象徴的な作家がふくやまけいこだというのが大塚の見解。これは二人の名前を並べたタイトルを見た段階で予想したのとほぼ同じ議論ではあった。大塚は「まんがさえアニメーション的なものによって描き変えられていく印象があった」と記す。マンガ家がアニメの影響を受けているなど今となっては当たり前のように思えるだろうけど、大塚の言うことは正しいように思える。
 思春期以前からアニメファンとなり、そのままアニメファンでありつつ、創作を行うようになるという世代の登場はおそらくあのあたりからであると思われる。ふくやまさんへの東映動画や日本アニメーションの強い影響は『ふくやまジックヴック』を見れば明確だ。
 アニメの感覚が、マンガを描く際にも内面化されていたことは、84年5月の『ぱふ』ふくやまけいこ特集号でのインタビューでも際立っていて、デビューしてまだ間もないふくやまさんが「チェックのワンピースとか描くと、これじゃあ動画の人が大変だとか思って(笑)」と語っている。ふくやまさんは笑い話にしているが、おそらくマンガを描く段階でのこういう発想はそれ以前にはなかったと思われる。
 付け加えると『ジックヴック』で東映動画や日本アニメーションの作品がふくやまさんに多く言及されていた一方、あそこではマンガそれ自体から引かれた線が見えなかった。それを補完したのが手塚治虫リメイク『メルモちゃん』一巻限定版の特典で「これは平成版『ふくやまジックヴック』だ」との帯書きがある「らくがきノート」になる。

 大塚によるとアニメージュに掲載されたふくやまさんのプロフィールには、ホルスやハイジのスタッフ表を見ると必ず同じ名前に行き当たることに気づいたとあるというが、ほぼ同じことを五味洋子さんも『アニメーション思い出がたり』で「作品のスタッフタイトルを元に、サブタイトル、放送年月日、脚本、演出、美術、作画監督の名を走り書きし」「同じ作品を毎週見ていくうちにあるローテーションで同じ名前が出てくること、それらの名前と作品のでき栄えに一種の相関関係があることに気づくようになりました」と述べている。
 同時期にこうした感性の人たちが一気に出現して、やがて上映会や同人誌の作成などのサークル活動を通して集団を形成し始めていることがここから感じ取れる。大塚は、そういう共通体験を持つアニメファンたちが描いてみたかった絵の「正解」の一つとして『ふくやまジックヴック』を挙げる。そして、この新しさは実は後の世代にはわかりにくいと。

 ちなみにふくやまさんのデビュー作「地下鉄のフォール」が『ふゅーじょんぷろだくと』に掲載された後に、『アニメージュ』の企画ページに使われた経緯も、ここで書かれている。わたしは以前、「地下鉄のフォール」の書誌が混乱しているとツイートしたけど、大塚は「ふくやまのデビューの詳細が今ではわかりにくくなった」ことの理由の一端がここに関連しているかもしれないと考えているようだ。なお『ぱふ』のふくやまけいこ特集号や『サイゴーさんの幸せ』のワイド版で示されたリストには「地下鉄のフォール」の初出は明記してある。

 近作のプロフィール表記を確認すると、『メルモちゃん』では一、二巻ともに「地下鉄のフォール」でデビューとしている。特に一巻では『ふゅーじょんぷろだくと』の81年10月号と詳細に書いてある。同じ徳間の『ひなぎく純真女学園』では、『ふくやまジックヴック』から『ゼリービーンズ』を初期の活動として書いている。「地下鉄のフォール」には触れていないが、とにかく徳間は「うちでデビューした」とは書いていないことが分かる。
 メディアワークスの『髪切虫』では「月刊『リュウ』にて『ゼリービーンズ』でデビュー」とする。ただ「地下鉄のフォール」の問題はさておき、『リュウ』という雑誌でデビューと取るなら、単行本のタイトル、あるいは連載二回目の副題ではなく初回の「大きな星空小さな部屋」で表記するほうがよさそう。朝日の『週刊マンガ世界の偉人 いわさきちひろ』では「1982年に『大きな星空小さな部屋』でマンガ家デビュー」としている。これは、『リュウ』でデビューしたと言っているのと同じ。
 最大の問題というか、どういう意図で書いたのかというのがハヤカワ文庫に収録された各作品に統一して記載されているプロフィール。「1982年〈リュウ〉に、《エリス&アメリア》シリーズの第一作『大きな星空小さな部屋』を発表して商業デビュー」とある。商業デビューってどういうことで、「地下鉄のフォール」を掲載した『ふゅーじょんぷろだくと』の位置づけがいまひとつ分からない。マイナー誌であろうが『ふゅーじょんぷろだくと』は雑誌コードも取っており、当時ちゃんと流通を通していたわけで、なぜそれがオミットされてしまうのか。
 こうしてまとめて見てみると、ふくやまさんのプロフィールを記載する場合、徳間以外の出版社では「徳間さんの『リュウ』でデビューしました」と言っているのだけれど、当の徳間だけはその表記を採用しないというのが目立つ。時系列をあらためて整理すると「地下鉄のフォール」は先に引用したように『ふゅーじょんぷろだくと』81年10月号発表であり、「大きな星空小さな部屋」は『リュウ』82年3月号に掲載されている。

 大塚は『「おたく」の精神史』の記述とも関連して、掲載号の『ふゅーじょんぷろだくと』やその後に描いた『アップル・パイ』が「ロリコン」という文脈でふくやまさんを起用したことが不本意だと思っているのではないかと推測する。

 まず、細かいことを補足しておくと当該文章の中で大塚は「『プチアップル・パイ』でデビュー二作目を書いて」とあり、実際に何作目にあたるかはもはや錯綜するだけなのでここでは論じないが、これは「女の友情」のことを指していると思われる。ただしこれはプチ抜きの『アップル・パイ』であり、ふくやまさんの作品リストを見ても『プチアップル・パイ』の誌名はなく、一方、『プチアップル・パイ』側のリストを見てもふくやまさんの名前はない。「女の友情」以後も『プチアップル・パイ』には描いていないはずである。

 さて、ロリコンという枠組みをふくやまさんが忌避したことによって「地下鉄のフォール」の位置づけが曖昧になっているのではという大塚の主張は分からないでもないけれど、この文章で見る限りではあくまで推測でありちょっと実証性が示されていないので(別にあるのかもしれないが)、現段階では評価することが難しい。『アップル・パイ』の編集者でもあった大塚が自分自身の問題意識に引き付けすぎているのではないかという気もしないではないからだ。

 いろいろ面倒なことを書いたけれど「地下鉄のフォール」自体は、まず『何がジョーンに起こったか』に収録されて、大都社の『すてきな瞳』にも再録されているので、作品自体を読むことについては困難はない。というか、『すてきな瞳』の作者あとがきを見てのけぞったのだけれど、「地下鉄のフォール」について、「とくま書店のめんじょうさんが私にマンガを注文してくれてはじめてきちんと描いたマンガ」と書いてある。これ、デビュー当時の本人の記憶が書き換えられてる可能性もある。この「めんじょうさん」は、たぶん校条満氏で、『ゼリービーンズ』のあとがきにも出てくる『リュウ』の編集者だ。そして、ふくやまさんの原稿管理とかのスキルはわりとアレなところもあって……。

 ともあれ、ふくやまさんのような「アニメーションの影響下に出てきた新しいまんが」について当時「ロリコンまんが」(あるいは「美少女まんが」か)という不適切な呼び名以外になく、未だにそれは正しく名付けられていないという大塚の指摘には首肯する(この文章ではふくやまさんの作品について、主に「絵」をめぐる議論だけになっているのは不満と言えば不満だけれど)。ふくやまさんだけでなく、同時期にあらわれたかがみあきらや早坂未紀、白倉由美らの名を挙げて「萌え」の起源の絵柄であるとも示唆しているが、大塚はこれらの作家を「萌え」に回収しようとは思っていないはずだ。
 各人の教養について「ふくやまや新井やガイナックスがそうであったように、むしろ自分たちは旧世代の最後尾であるという意識が本当はとても強かったのではないか」という、この回の結びの文章からもそれは読み取れる。ただ、感覚的には納得できる一方で、連載の一回分だけ切り出して読んでるので、ちょっと全体の議論に立ち入れないところがある。ラノベ的教養の先駆者でありながら、そこに囲われた世界像には苛立ちを示した人物には栗本薫も関わってくるはずでわないだろうか。大塚英志にはこの連載をぜひ一冊にまとめてもらいたいと思う。


追記 刊行されました。書籍全体への感想はこちら(http://sukeru.seesaa.net/article/437527268.html
二階の住人とその時代 転形期のサブカルチャー私史 (星海社新書)
二階の住人とその時代 転形期のサブカルチャー私史 (星海社新書)
「おたく」の精神史 一九八〇年代論
「おたく」の精神史 一九八〇年代論

キャラクター小説の作り方
キャラクター小説の作り方

メルモちゃん@限定版(リュウコミックス)
メルモちゃん@限定版(リュウコミックス)

何がジョーンに起こったか (1984年)
何がジョーンに起こったか (1984年)

すてきな瞳
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posted by すける at 22:33 | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年01月06日

ふくやまけいこ同人誌『けい−1』『けい−2』

 ふくやまさんの本格的な同人誌がついに来ました。12月30日の冬コミで購入。もう、ふくやまファンなら読みながら奇声をあげたり痙攣したりするようなえらいものですよ。あいかわらずの写メ画像ですいません。

K0010030.JPG

 巻頭にはふくやまさんのイラストが付された自作のFAX用紙が掲載されてるんですが、ふくやまさんからFAXしてもらえる人は、これが自宅に届くわけ?うらやましー。

 感想マンガは『どうぶつ宝島』『太陽の王子 ホルスの大冒険』『ガンバの冒険』など!『どうぶつ宝島』のキャシーちゃんは、たしか森やすじ展に寄せたイラストでも描いていたなぁ。ふくやまさんの感想はいつも微細な動きの表現のあやを捉えるところから、いつのまにか作家性や作品の狙いが語られていて、すごく面白い。ジックヴックや『福袋』などで描かれたものと、単行本未収録のものあわせてふくやまさんの感想マンガは一冊にまとめるべきだ、べきなんだ。

 他の人の作品を読んでから描いてみたというラフも即死級の威力。『大正野球娘。』だよ。『姑獲鳥の夏』だよ。ああ、描いてるんだよ、ふくやまさんが!さらにハリポタや『パワーパフガールズ』など。死にそうです。

 ふくやまさん自身の過去作品ラフでは『メルモちゃん』『アップフェルラント物語』『夏の魔術』シリーズ、『まぼろし谷のねんねこ姫』『ナノトリノ』『ひなぎく純真女学園』『緑の髪のアミー』『髪切虫』など。特に『やっタネ!カリンちゃん』ではまさかの7ページ、思わず本棚から取り出してしまいました。
 初期のラフを見るとカリンちゃんは本編よりも細めで少し落ち着いた感じの子に見えますね。うーん、この子も見てみたかった。本編ではラフより丸くなって、性格も少し大雑把そうな感じになってます(笑)丸くなった感じは『メルモちゃん』のピノコにもあるかな。
 ちなみにカリンちゃんの冒頭部分のストーリーは編集さんに「ママをこわく描くのはダメ」と言われたとか。掲載誌の性格もあるんでしょうが、「ススムちゃん大ショック」とかは絶対載せられないね!
 あと、『髪切虫』は、まだ描きたいことがあるそうなので、次の展開を待ちましょう。

『星の島のるるちゃん』早川文庫版描き下ろしの最終エピソード「ふたりのエリちゃん」のプロットが入っているのは感慨深い。この話の感想はわたしも書いてます。なかよしで持ってる人もこの加筆分はぜひ読むべきですよ。連載開始時点で、すでにこの話の構想があったという話も興味深いです。

 実家を片付けてきたら出てきたあれこれをまとめたということで、結構あたらしめの作品が多いのが嬉しいところですが、こうなると他の時期のものも出てこないかなーと思いますね。『ライラック物語』とか、『レイニー通りの虹』など。
 というわけで、ふくやまさんの作品を読んでいるほどに楽しくてたまらない本になっているのですが、一方ではオークション等で早々に転売で値段が跳ね上がっている様子も見受けられます。1月6日現在では、まだ在庫があるという情報もあり、販売方法さえ整理されれば、ふくやまさんの利益になる形で適正な価格で買えるチャンスはあるようなので、落ち着いて告知を待つのがよいと思います。

グラニュー島とカリンちゃん―ふくやまけいこ作品集 (CR COMICS DX)
グラニュー島とカリンちゃん―ふくやまけいこ作品集 (CR COMICS DX)

星の島のるるちゃん2 (ハヤカワ文庫JA)
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posted by すける at 20:41 | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年11月28日

『キン肉マンレディー』小川雅史

 キン肉マンの超人が女体化するパラレルワールドという、最初に聞いた時にはいったいダレ得だよと失笑してしまったマンガだがこれは拾い物、一発ネタのイロモノではなくキン肉マンファンにとってしっかり楽しいマンガになっている。そりゃ、オレの年代でキン肉マンファンじゃないってわけないだろー!

キン肉マンレディー 2 (ヤングジャンプコミックス・ウルトラ)
キン肉マンレディー 2 (ヤングジャンプコミックス・ウルトラ)

 話は第20回超人オリンピック直前からスタート。ミート君だけはオリジナルの世界の記憶(二世の冒頭に相当)を持っているというのがひとつポイントになっていて、その知識をもとに歴史に介入するかどうかという展開がしばしば見られる。

 また、しばしば原作の各要素を圧縮した展開を見せ、予選はオリジナルでは三つに分けていたゲームを一つにまとめるという強引な展開で笑わせてくれる。一回戦の四試合目から準決勝の二試合と三位決定戦(をひっくり返したような展開)を乱闘の形で一気に消化して決勝に持ち込むなど、短いページで本編のエッセンスをうまく伝えていて作者のセンスのよさが光っている。
 21回大会予選はオリジナルの要素はやや省略されているけれど、本選の対決を前倒しで繰り込むという形で工夫されている。

 超人ではフロイライン・ブロッケンJr.がオリジナルの直情的な血気盛んさは抑え目に軍師キャラになっていたり、ウォーズマン・ジェーブシカが外見クールの「はわわ」ドジっ娘(タッグ戦の「アワワ」発言が元ですね)、原作の切れやすさがさらにエスカレートしたテリーマンガールというあたりがとりわけ目を引くけれど、スペシャルマン(女)や女カナディアンマンといった有名どころの脇役のみならずウナ・スカイマンやカーリー・クックといったあたりに出番が多いのもうれしい。女性用ベンキマンは凶悪だったけどねー。あ、ウォーズマン・ジェーブシカのところロシアネタということで速水螺旋人さんがちらっと見えますな。ピロシキ売ってる。

 小ネタの拾い方は7人の悪魔超人編でも炸裂していて、オリジナルでは伝説化しているリングに紛れ込んでいた謎超人を見事に消化しながら七人を登場させた手際は驚くほどで、本格的な試合が期待された、んだけどもー。この作品の最大の欠点は、やはり変則的な展開で、最初から団体戦になる流れを見せたところで事実上連載が終わってしまったことですよ(泣)
 なにかいろいろ大変だったことはうかがえるのだけれども、ほんと、どれだけ時間がかかってもいいから試合の中身を見せてほしい。レディ・ロビンのフィギュアを買って、ウォーズマン・ジェーブシカも当然出るんだろうなーと期待してたんですからね……。最終ページののスケッチを見ても試合の構想らしきものの一端は垣間見えるのでますます残念。大神満ちゃん(ウルフマン)にはオリジナル以上に活躍する余地がありそうだし、ステカセやカーメンもかわいいデザインだったのになぁ。
 ちびっこカメハメ師匠のグレート(あれ、さすがにあのままだとテリーが入れ替わるのは無理だと思うけど実現したらどう処理するんだろうか)やアタル兄さんのとこまで見たかった、というのは贅沢すぎるだろうけどね。まあせめてもザ・くノ一と阿修羅姫は見せてもらったけれど。というわけで、面白かっただけに泣き言が多くなった感想。

エクセレントモデル キン肉マンレディーシリーズ 2レディ・ロビン
エクセレントモデル キン肉マンレディーシリーズ 2レディ・ロビン

キン肉マンレディー 1 (ヤングジャンプコミックス・ウルトラ)
キン肉マンレディー 1 (ヤングジャンプコミックス・ウルトラ)

キン肉マンレディー 3 (ヤングジャンプコミックス・ウルトラ)
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posted by すける at 01:53 | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする