2013年09月17日

『靴ずれ戦線』速水螺旋人

 史実に沿った戦闘の裏で、ロシアの民話や伝説に登場する魑魅魍魎や英雄たちが暴れまわる、独ソ戦を舞台にしたファンタジー。ソ連側の視点なので「大祖国戦争」ということになる。

靴ずれ戦線 1 (リュウコミックス)
靴ずれ戦線 1 (リュウコミックス)

 時系列が前後するのは、連載された『COMICリュウ 』掲載時の季節に合わせたということで、作中にはさまれる解説などにあるように、本書に登場する民話の神々や妖異たちが、しばしばロシアの季節や風土の人格化であったり特定の日の祭りとかかわりが深いことなどを考えるとなかなかうまい構成である。冬の終わりや夏の盛りといった季節と、その象徴である妖怪、そして戦争といったものを結びつけつつコミカルに描く技量は見事なもの。単行本だと、そのあたりの工夫がちょっと分かりづらくなってしまうけれど。

 最終話の一つ手前、ベルリン攻撃を扱う「巨竜とベルリン征服」では、これまでに登場したロシアの英雄に、さらにひとつ大技が炸裂し、怪獣大戦争のおもむき。兵器や衣装について詳しければ、さらに細かいところまで楽しめるのだろうけれど、そちらは専門の人にお任せします。

 近代戦にバーバ・ヤガーの弟子である魔女ワーシェンカを徴用するという物語の基調はコメディだけれども、これがボルシェビキ政権下におけるものだということが、静かな緊張感を与えている。第十話で明かされる、NKVDの士官ナージャの人種も、彼女の人生に困難の多かろうことを思わせる(そして、それを指摘されて反論するナージャの言葉の芯の強さと、それを言葉に表すまでの一コマの溜める表情が見事だ)。
 このような不安を抱えた二人がどのように戦場を生き延びていくのかは直接読んでいただきたい。とりあえずは二巻で完結だけれど、もう少し、二人の活躍を読んでみたかったな。一番好きなシーンはワーシェンカが楽しそうに踊っているところだったりする。

 これを機にロシアの民話も少し読んでみよう。

靴ずれ戦線 2 (リュウコミックススペシャル)
靴ずれ戦線 2 (リュウコミックススペシャル)

イリヤ・ムウロメツ (講談社文庫)
イリヤ・ムウロメツ (講談社文庫)
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2013年09月08日

Jコミでふくやまけいこ作品公開

『(株)Jコミの中の人』の記事にあるように、Jコミでふくやまけいこさんの作品公開が始まりました。

 まずは84年の『ゼリービーンズ』からで、わたしがもっとも愛するこのマンガが、広く手軽に読めるようになるとは嬉しい限りです。94年の新装版には収録されなかった「自己紹介のページ」や「らくがきのーと」にあとがきマンガ、綴じ込みの「エリスの日課表」 などが読めるので、94年版新装版の方で読んだという人もぜひ目を通してください。 
 一方、新装版にはギャラリーに未発表イラストや、『リュウ』での予告カットが収録されています(「エリスの日課表」からいくつかイラストも採られています)。巻末には「ふくやまけいこ自作を語る〜「ゼリービーンズ」ができるまで〜」という文章も。結論としては両方持ってると魂の平和が訪れることでしょう。

 ところで、アマゾンでは新装版が93年12月発売になってるんですが、現物のカバーには94年1月10日初版発行とあって、こういうのどれを取ればいいんだろう。


 話は変わって、さらなる衝撃をふくやまファンに与えたのは、Jコミ同記事の「「ジ・アニメ」に掲載されていた『ファンテール』の掲載許諾が出ております」という文章でしょう。『ファンテール』ですよ!『ファンテール』ぜったい無理だと思っていたあのまぼろしの『ファンテール』!
 しかも、単行本化されず、ふくやまさんの手元にも原稿・掲載誌がないという状態がわずか半日で解決したという、まあ、どこかにいるはずだとは思ってましたが、ネットってすごいなぁとあらためて。

 わたしが出来るようなことは少ないのですが、いずれ公開されると思われる『ファンテール』の主人公ドナの画像、本編以外のものをちょこっと貼りたいと思います。スキャナ無いので携帯のデジカメだよ、ごめんね。

まずは『ふくやまジックヴック』(表記は「ドーナ」)。
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『何がジョーンに起こったか 』カバー下(表)
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『何がジョーンに起こったか』カバー下(裏)
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そして、『ジ・アニメ』の綴じ込みポスターのカラーコピーです。
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 ふくやまさんが大切にしてきたキャラクターであることが分かりますね。ああ、まとめて読めるなんて嬉しい……。思えば、連載中断時にハシラに書かれた「加筆の上単行本化します」という言葉を信じたまま、どれだけの年月が流れたのでしょうか。加筆は無理でしょうけれど、本当に嬉しい。逆転した考えではあるんですが、あらためて書籍化してくれないかなぁとも思いますね。

ゼリービーンズ (アニメージュコミックス)
ゼリービーンズ (アニメージュコミックス)
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2013年07月27日

『ガクエン退屈男』『バイオレンスジャック』『凄ノ王伝説』永井豪 早乙女門土と身堂竜馬

(話をガンガン割りますのでご注意。基本的にはKCスペシャルとゴラク版をベースにして、必要に応じて中公文庫の完全版を参照して語ってます)

 早乙女門土と身堂竜馬って、デビルマンやキューティーハニーといった有名キャラに比べると一般的な知名度は一段落ちるだろうけれども永井豪世界の超重要キャラだと思ってる。学生運動のゲリラとしての二人のデビュー作になる『ガクエン退屈男』は永井豪特有のぶん投げエンドなんだけど、あの作品に関しては主人公の門土に物語を収斂させるって性向がないから、かえってはまってるんだよね。ラスト、完全に目がいってるんだけどカッコいい。

ガクエン退屈男 [カラー完全版]1
ガクエン退屈男 [カラー完全版]1

 そして、お互いの関係性など細かい設定は変わって、『バイオレンスジャック』で再登場となるのだけれど、この二人の動きは物語全体を大きく左右してしまったところがあります。作品世界に初登場する「激闘!門土編」において、門土と竜馬は地獄地震による混乱下にある関東に入り、ジャックに「関東に生きる資格がない」と言われつつも、同時にうまくいけば関東を支配する「スラムキングと対立する力」になるかもしれないという両義的な評価を受けている。
 ここまでに登場した各編の主人公である逞馬竜、天馬三郎らの少年が基本的には善良で正義を求める性格であることに比べると、門土は利己的で暴力的な衝動も強いなど明らかに異色です。スラムキングと正義の少年たちの間に門土のような勢力が存在すれば、この世界の地図は相当興味深いものになったのではないでしょうか。

バイオレンスジャック―完全版 (1) (中公文庫―コミック版)
バイオレンスジャック―完全版 (1) (中公文庫―コミック版)

 しかし、『ガクエン退屈男』で見せた門土の暴走は関東でも止まりません。続く「黄金都市編」で門土は作者さえも驚くような勝手な行動を続けた挙句に、ジャックと一騎打ちを行ない、しかけた罠が裏目に出て四肢をバラバラにされて爆死します。なんなの、この人。
 ですが、驚くのはまだ早いというか、しばし連載中断した後に再開された「疾風ドラゴン編」の冒頭で門土は竜馬とともに気ままな旅を続けている姿が描かれます。ちなみに物語的にここでこの二人が登場する必然性はまったくなく、体吹っ飛ばされて死んだ門土が、なんの説明もなく生きているというとんでもない状況を描くためだけに出てきたと言えるでしょう。

 実際この辺は連載の継続や刊行をめぐる扱いも決めかねている様子が見えます。このあたりについての豪ちゃんの言葉は「大悟への道」さんを参照。「「バイオレンスジャック」の連載を中断し,いつかふたたび門土をよみがえらせ,バイオレンスジャックに対抗する巨大な力として描かなければならないと思い,読者が,かつての門土をわすれてくれる時間をまっていたのです‥‥」なんじゃそらぁ!

 というわけでKC新書判では「黄金都市編」が収録されず、門土が死んだという事実がなかったことにされています。ちなみに「激闘!門土編」は「黄金都市編」を黒歴史化するにあたり、冒頭だけを収録する際に事後的につけられたタイトルだとか。
 しかし……、KCスペシャルではこのような辻褄を合わせるやり方を捨てて「黄金都市編」で死んだ後に「疾風ドラゴン編」で平然と生きているという展開を採用。この開き直りが後で活きて来ます。この辺りの収録をめぐる異同については『永井豪の部屋』さん、『Sum up 豪 mania』さんのバイオレンスジャックページを参考にしてください。

 このあと連載は「週刊漫画ゴラク」に移りますが、門土をめぐる理解は「死んだけど、生きてる」でOKです。そしてこの門土の復活はバイオレンスジャックの世界に決定的な影響を与えることになるのです。門土の死を竜馬が自らの思念の力で覆して蘇らせるというあり方は、この作品の構造を最終的に決定したサタンとバイオレンスジャックの関係に明らかに結びついています。
 早乙女門土と身堂竜馬というこの二人だけがある意味、明と了の間で生じるバイオレンスジャックの世界に対して自律的な関係で拮抗しうるのであり、だからこそジャックその人によって門土も竜馬も、ついにスラムキングと正面から向かい合うことのないまま決定的な時期に関東から排除されなければならなかったのではないでしょうか。

 ここからは、『バイオレンスジャック』で門土が登場したシリーズについて軽く触れます。

マガジン
「激闘!門土編」 登場です。これまでの主人公とは違う悪漢型のヒーローに期待。
「黄金都市編」 ある意味クライマックス。黄金をめぐる複数の暴力組織の対立を煽って共倒れを狙うハメット的な展開に、ジャックがからみ、最後はスラムキングの騎馬軍団が突入に、少年だった逞馬竜の軍団が姿を現し始めるなど前半のピークです。最大の見所はバズーカで吹っ飛ぶ主人公!
「疾風ドラゴン編」 なぜ生きてる。

ゴラク
「死神警察編」 正義の門土。死神警察に辱められる少女を救い、相手が相手だけに反骨心もよい方に出たか、半ばなりゆきながらも女ジャックと協力しつつ圧制を覆すのに一役買うなど完全にヒーローです。竜馬が「門土ってそんな優しい人だった?」とからかうほどに。これが竜馬が求めた門土に一番近いのか。自分を助けてくれた門土さんの寝顔にキスをするあゆ子、というのはこの作品中もっとも幸せな場面のひとつ。
「ハイパーグラップル編」 スラムキングと対立していた凄ノ王の勢力を瓦解させる一端となったり、なによりも朱紗真悟との接触によって竜馬の能力と門土の関係が示されるなど、後々の展開上重要な章。朱紗と竜馬は『凄ノ王』以来の再会だけど、友情が芽生える気配もありません。ところで合田はどうなった。
「鉄の城編」 通りすがりです。Zを囲む機械道空手派の気を逸らしたり、アフロディナとダイアナに甲児たちの居場所を教えたりと、一応味方側のポジション。ジム・マジンガについてギャグとして扱う人も多いですが、わたしはパイルダー・オンかっこいいと思います。
「身堂編」 タブーだった「黄金都市編」への言及がなされ、ついに身堂虎乃助と相対するなどラストスパート。とりあえず破局は回避したけれど、なんらかの結論が要求されていることは疑いない。
「超高層の悪魔編」 あの虎乃助とフラッシュの和解っぽいシーンはなんだったのか!竜馬が最後に見る幻想は、「二人が超高層都市に近づかない」ではなく、もっと時系列を前に倒して「二人が黄金都市に近づかない」であってほしかったという気持ちがあります(そもそも最初に立てた幻想もこのバージョンでしたが)。これが現実化したなら、門土は死なずに済み、門土派が一大勢力となってスラムキングと闘う世界線という夢展開が可能に。でも、竜馬が求めたのは理想の門土との気ままな旅、だったんですかね……。

<おまけ>
『凄ノ王』でも身堂竜馬は出てきます。部団連合に一人抗う朱紗真悟に助太刀する剣道部副部長という設定で、これは完全に味方側のキャラ。これで竜馬を知ると他のマンガでびっくりするんじゃないかと思います。さらに角川版の『凄ノ王伝説』では終盤の7巻、凄ノ王パニックで崩壊後の世界に魔を退治し続ける竜馬の苦境に錦織つばさ、早乙女門土が合流して『ガクエン退屈男』学生ゲリラ三強(狂)が再び顔を揃えます。ヒョウロクはどうした!

凄ノ王伝説 7 (ヤマト・コミックス・スペシャル)
凄ノ王伝説 7 (ヤマト・コミックス・スペシャル)

 これはファンには感涙ものなんですが、このあと連載がグニャグニャとした展開になりまして、彼らのその後の活躍を見ることは出来ません。超完全完結版の触れ込みである講談社版『凄ノ王』ではこの展開はオミットされてしまったので、存在すら知らない人もいるかもしれません。本当に門土って、無かったことにされるよね……。

フューチャーモデルズ ジム・マジンガ (ノンスケール 塗装済み完成品)
フューチャーモデルズ ジム・マジンガ (ノンスケール 塗装済み完成品)
タグ:永井豪
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posted by すける at 23:27 | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする