2017年09月22日

『新感染 ファイナル・エクスプレス』ヨン・サンホ監督

 日本公開まではずいぶんかかったゾンビ映画見てきました。邦題含め、日本でのプロモーションにはいろいろありますが、ここでは触れません。



 落ち着いた美人で妊婦役のチョン・ユミは類型的な「足手まとい」キャラを演じさせられるのかなという登場時の予想を裏切って、最初のパニックシーンからペットボトルと新聞紙を使う迅速な対応でゾンビの追撃を切る、というところで一つ感心。この辺りで映画を信用しました。
 走るゾンビには懐疑的な方だったのですが、これは納得。元気いっぱいに集団疾走してくるシーンには思わず笑いを誘われるところもありますが、驚かせ方はなかなかのものです。列車内での横移動と駅構内での立てに落ちてくるゾンビといった見せ方の工夫もよく考えてあります。

 ゾンビ映画の裏テーマでもある社会描写については、追い詰められた状況での人間同士の分裂や不信、足の引っ張り合いという非常に普遍性の高い描写とともに、韓国固有の情勢を反映したものだろうなというものもあり、これがエンタメを見る際の興味深いところです。列車が向かう方向として不可避的にソウルから釜山という目的地は決められているのですが、なんらかの緊急事態が発生した時、ほとんどの韓国国民にとっては南へと向かうことはほぼ避けられないところでしょう。この撤退の方向がもたらす緊迫感はとりわけ現地の観客にとって生々しさがあるはずです。そしてこれは作品内の描写からは離れる水準の事柄ですが、付け加えるならば、日本の観客にとっては釜山の先には日本があるなというところでもあります。

 また観客の怒りを一身に集める船舶、じゃなかったバス会社の常務は予備知識なしに見ても韓国の人が見れば想起せざるを得ないモデルがいると考えられますし、その推測はすでにいくつか出されていますが、それはとりあえず措き、モデルとなった韓国での具体的な事故/映画作品『新感染』内部での描写/普遍的な水準での利己主義批判といった層がひとつに織り込まれて表現としてあると見ることができます。

 こうした悪役によって体現された悪の形に隠れていますが、このゾンビ事件の背景には、コン・ユ演じるファンドマネージャーの主人公ソグのファンドマネージャーとしての没倫理的な業務が関わっていたことが終盤に明かされるというシーンも重要です。金融資本の走狗として振る舞うソグに対する庶民の反感をマ・ドンソク演じるサンファが明言しており、そうしたソグの「吸血鬼」性もやはり世界を滅ぼす手助けをしていたということが突きつけられるわけです。
 ソグは、日常描写の段階での「一般投資家?そんなもの気にしてる場合か」という業務上の台詞に示される人生観がパニック後も当然行動に反映されていて、そこが(母親から人格的な涵養を受けている)娘とぶつかったりするんだけど、この利己的な振る舞いをパニックの中のある明確な線で跳び越えたのか、グラデーションで移行していったのかというのは気になります。はっきりしているのは列車の中に戻ったところから、下手をうったホームレスを、これまでの行動基準なら見捨ててもいいところで助けるところでしょうか。
 そして、ソグの部下であるキム代理、電話を切った後にどれだけ時間が残っていたのか分からないのだけれど、彼にも人間性を回復する戦いがあったのではとも。

 あと、見せ場はテーピング。もうあのシーン、ほんとうかっこいいですね。最後は『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』を見せ球に使いながら締めてくる。この水準の映画はたくさん見ていきたいところです。

新感染 ファイナル・エクスプレス (竹書房文庫)
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posted by すける at 16:43 | Comment(0) | 映画・演劇・ドラマ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月06日

『裏世界ピクニック』宮澤伊織

TLにちらほら流れてくる話では都市伝説の『ストーカー』な連作短編集だという評判の作品を、すこし遅れて読む。

裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル (ハヤカワ文庫JA)

 扱われている都市伝説は、「くねくね」「八尺様」「きさらぎ駅」等で、基本的にネットの掲示板等で広まった話になっている。おそらく同一空間と想定される〈裏世界〉に存在するこれらの怪異に二人の少女のコンビがそれぞれの動機で立ち向かっていくという筋立てだ。なるほど〈裏世界〉は『ストーカー』における〈ゾーン〉であり、とりわけ第二話の「八尺様サバイバル」に登場する先行者の肋戸の行動はタルコフスキー版『ストーカー』の身振りを直接思い起こさせてくれるものである。危険極まりない「ピクニック」とはストルガツキー兄弟による原題である『路傍のピクニック』から参照されていることは明らかだ。また、そこでの探索での収穫物は、帰ってきた世界で換金することも出来るようになっている。

 少女二人については「眼の女の子」と「手の女の子」という、わたしのキャラクターについての雑な認識の仕方があきらかな紹介の仕方をしてしまうが。このことによって〈裏世界〉での役割分担が決まり、それゆえにお互いを必要とするという設定になっている。

 第四話「時間、空間、おっさん」は書き下ろしということで、連作を単行本にまとめるにあたって、作品世界のいまだ判然とはせぬ深層を少しだけ推測させる形になっている。恐怖は定式化できるものであり、であるならば操作可能なものであり、また人間において突出した感情である。ここで人間は、(ある意味では積極的に)「恐怖させられる」ことで、なにかを見つけてしまうのだ。定式化ということに着目するならば、構造の方が重要ということもあるはずで、そう考えれば都市伝説が同行異曲、あるいはバリエーションを多く生み出すことにも必然性があると言えるかもしれない。
 こうした恐怖の実体に近づくことは、恐怖を打ち砕くためには必要なことでありつつ、ある限界を超えれば恐怖そのものに取り込まれることになるので、これはSAN値概念やあるいは『恐怖新聞』などと言ってもいいか、ギリギリの綱渡りが要求されることになるだろう。

 いまだ少女の動機は解消されていないし、その間にも未解決になっているままの事件もあったりと、まだ物語は完結していない。すでに後続する短編も発表されており、ふたたび一冊にまとまることが楽しみなシリーズである。

ストーカー (ハヤカワ文庫 SF 504)
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posted by すける at 09:28 | Comment(0) | SF | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年07月17日

『霊幻道士 こちらキョンシー退治局』

 新宿・シネマカリテの「カリコレ2017」上映作品のうちの一本ということですが、タイトルから分かる通りに「霊幻道士」で「キョンシー」ですよ。なにがオリジナルかと言い出すと大変な話ですが(『鬼打鬼』でしょうか)、われわれ80年代の小学生にとっては『霊幻道士』(『殭屍先生』『Mr.Vampire』)であるわけで、そしてこの2017年の新作はまぎらわしいタイトルのいただきではないスピリットがあふれているわけですよ。だって、『霊幻道士』では林正英(ラム・チェンイン)の弟子を演じた錢小豪(チン・シウホウ)が今作では道士を演じるんですから。(http://yugen-rairai.com/reigen.html )




 というわけで、連日満席になっている本作を見てきました。もうねチン・シウホウのアクションがあるだけで多幸感が出まくりですよ。『霊幻道士』では腕は立つけど女に弱い軽薄さもある弟子だった彼が、本作では渋みもあれば過去を引きずる痛みも持つ師匠としてアクションを見せてくれるの、ほんとうにこういうのがみたかったんだよーと。以前彼主演でジュノ・マックって監督によるキョンシーものもあったんですが、どうも設定がメタっぽくそこは忌避してしまいました。アンソニー・チェンも出てて、キャストは最高だったのに。願わくば、古典的な道士の正装姿をとも思いますが、それはまたの機会に。

 キョンシー退治を執り行う「清掃局」の局長をつとめているのは『霊幻道士3』で道士を演じたリチャード・ンですが、実に矍鑠としたもので、これも嬉しくなってしまいました。予告でも切り抜かれている「少しくらいは英語も分かる」ってセリフがあったんだけど、これはギャグかな。香港だからそこそこの英語はというレベル超えて、彼、イギリス留学で演劇学んだインテリだもんなぁ。「清掃局」はひとつの部署としてお札書きとか武器造りとかある程度分業制になっていて、90分の映画の尺では必ずしも活かしきれたとは言えないけど、彼らにエピソード割り振れば、いくつか話はつくれそうで、この設定でTVシリーズ化しろという人がいるのも分かります。
 主演の青年、チョンティンを演じるベイビージョン・チョイは昭和の香港映画見てた人間からすると線が細くも見えますが、アクション映画で実績を積んでいて中堅に入りかかっていると言ってもいい俳優なのかな。ヒロインの女キョンシーを演じるリン・ミンチェン、キョンシー歩きをさせないためにセグウェイに乗らせるあたりの小技に笑いつつ、役柄が特異なので演技力とかは考えなくていいななどと思わせながらも、チョンティンとの出会いのシーンで唇を噛み切り彼の生命力を吸い出すシーンをラストに対応させて収束させるあたりの使い方はなかなか上手いものだと思いました。

 中盤に見せ場のアクションをひとつ入れてほしかったとか、ラストバトルはもう少し長く見せてほしかったとか、この辺「武術指導」的なポジションはいまどうなってるのかしらと注文はあるんですが、たしかにゴールデン・ハーベスト感のある香港映画を見れたことに比べればささいなことです。今年は『おじいちゃんはデブゴン』で石天さんを、本作でチン・シウホウを日本のスクリーンで見れたのでよい年です。うん、チン・シウホウの道士はもっと見たいなぁ。

霊幻道士 こちらキョンシー退治局 [Blu-ray]
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霊幻道士 デジタル・リマスター版〈日本語吹替収録版〉 [DVD]
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posted by すける at 21:50 | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画・演劇・ドラマ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする