2018年03月14日

ジョージ・A・ロメロ 、ジョナサン・メイベリー編著『ナイツ・オブ・ザ・リビングデッド』〈死者の章〉〈生者の章〉

 ジョージ・A・ロメロの、もはや説明不要の歴史的傑作『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』を直接的に題材にしたアンソロジー。竹書房文庫はここのところ翻訳でいい仕事をしてくれている。

NIGHTS OF THE LIVING DEAD ナイツ・オブ・ザ・リビングデッド 死者の章 (竹書房文庫)

 基本的に世界観は一致させながらゾンビ(という表記で書かせてもらおう)と世界についての物語が描かれていて、まずはロメロによる「身元不明遺体」が注目されるところだが、多彩な作家陣の起用に併せて様々な要素が盛り込まれており、超能力者(「ファスト・エントリー」ジェイ・ボナンジンガ)や幽霊(「発見されたノート」ブライアン・キーン)といった隣接するようなジャンルとのミックスや、宇宙ステーション内部で起こったゾンビ騒動(「軌道消滅」デイヴィッド・ウェリントン)などのシチュエーションで読ませてくれる。
 とりわけ、オリジナルの脚本家であるジョン・A・ルッソによる、タイトルからもわかる直接の後日談「その翌日」には、作品内の固有名詞が使われており興味深いものだろう。また、アイザック・マリオン「卓上の少女」は、映画ではほとんど描かれることのなかった少女の視点から事件を描いており、ただの被害者に過ぎなかった市登場人物に対してこのようなアプローチが可能になったこともジャンルと作品そのものが積み上げた厚みであろう。ジョナサン・メイベリー「孤高のガンマン」は自身のシリーズ作品を『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の舞台に近づけたもので、ファン上がりの作家の冥利に尽きるというか、こうした「サークル」をホラー作品がとりわけ形成しやすいことにも考えが飛んだりもする。

 一方ではメイベリー自身がアンソロジーの冒頭で告げるように、作品群のいくつかは「時代設定は大雑把」というように、原典の時代とは違うだろうというようなガジェットも散見するし、その筆頭が何よりもロメロの作品である。とはいえ、オリジナルの映画において勇敢に闘いながら無残な最期を迎える主人公ベンを演じたデュアン・ジョーンズの起用は彼の演技力が群を抜いていた上での偶然であり、本来脚本上では主人公は白人のはずだったとロメロは告白しているのだが、当初の脚本上では粗暴な肉体労働者だった主人公にデュアン・ジョーンズが与えた意志的で抑制的な演技は、エンターテイメントのただなかに黒人と白人との社会的なきしみを映し出していることはやはり否定しようもなく、そうしたことが偶然に起こることがむしろ必然的であり、この映画が持つドキュメンタリー的な雰囲気は68年の分化的な革命を構成する一部だったとあらためて思わざるを得ないのだった。


NIGHTS OF THE LIVING DEAD ナイツ・オブ・ザ・リビングデッド 生者の章 (竹書房文庫)


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posted by すける at 16:16 | Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年03月06日

菊池桃子『午後には陽のあたる場所』

 少し前、TBSラジオ『伊集院光とらじおと』で、ゲストに招かれた菊池桃子のトークが非常に興味深かったので、著書も読んでみる。

午後には陽のあたる場所
午後には陽のあたる場所

 まず、第一章では自分についての「自身の無さ」と祖母からの肯定について書かれているのだけれども、後の方まで読むと、これが私的な語りに終わるものではなく全体に関わるイントロとして置かれているものであることが分かる。
 本書の主要なテーマはやはり長女に乳児期の脳梗塞からの後遺症があることが判明してからの向き合い方にあると思われるが、ここで自分の子供時代と、自分が子供を持つ親になった時代とが互いに参照されてから、一般的な議論を展開していく支点とするという方法が示されている。先述のラジオのトークでもその語り口は特徴的であり、個人的な経験を、普遍的な制度の話と絡めたり切り分けたりという距離感が適切だった。
 娘の小学校入学に消極的な学校側から、家庭教師をつけるという代案を示された時の感情が、費用のかかる家庭教師の利用という条件に対して、「お金のない我が家は対応出来ない」でも「お金のある我が家は、多少大変だがなんとかなる(著者は経済的条件だけ見ればこちら側だろう)」でもなく、義務教育の期間に家庭の資産状況で教育を受ける権利がそこなわれること一般に対する怒りであることからも、菊池がつねに普遍的な視点を意識していることが分かる。

 また、後遺症があることが判明した時に、「インターネットで論文の専門サイトにアクセスして、専門性の高い言葉のすべては理解できないまでも、最新の研究の情報も探ろうと」したとさらりと書かれているけれど、これはおそらくCiNiiだろうし、病気等について「ネットで調べる」という時にここを経由して情報に当たり、典拠の怪しい「医療情報サイト」については斥けるということは、なかなか出来ないことで、「調べる」ということについて適性があり、非常に訓練されている感じを受ける。のちに「普通教育と特別支援教育との違いがキャリア形成にいかに影響するのか」をテーマに法政大学大学院に進学することになるというが、それ以前にこういう手法を持っていたことはわりと驚いた。

 ということで、以前、1億総活躍国民会議に民間議員として起用された際も、そもそもその定義について疑義を示すなどの見識を示したことが話題になったこともあったが、決してフロックではない、まっとうな学問の知見と方法を踏まえたものであったことが納得できた一冊だった。


(追記)それにしても伊集院光(あるいは大槻ケンヂ)の世代にとって菊池桃子と言えばラ・ムーや『テラ戦士ΨBOY 』といったネタ感の強い存在だったわけで、いまこういう文章を書くことになるとは中学生のころにはなかなか想像できませんでした。
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posted by すける at 21:49 | Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年02月22日

『るろうに剣心』(京都大火編 / 伝説の最期編)大友啓史監督

 遅ればせながら、TLで評判の良かった実写版『るろうに剣心』見ました。聞いていたとおりなかなか見どころのある殺陣を見せてもらいましたが、アクション監督を谷垣健治氏が務めていたということで納得の出来栄えです。

るろうに剣心 京都大火編 通常版 [DVD]
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 ストーリー面からみると四乃森蒼紫という人物の行動が、上映時間との兼合いで無茶ではた迷惑なんだけれど、それでは映画から外せばいいのかというと、修羅場に営業電話をかけて来るような迷惑の極みの押しかけバトル、翁との対戦で見せる伊勢谷友介の二刀を使った殺陣が全編を通じたベストバウト級で、特に決着のシーンは、歎声が漏れるほどという、うーん、バランスが。過去から現在への切断、かつての政治的な立ち位置も含めて、主人公との思想的な対立軸が志々雄の他に複数必要であるというのも分かるしなぁ。

 好きという意味では大火編の最後に剣心が一人で煉獄に乗り込んで、十本刀と乱戦に入るシーンですね。佐渡島方治が人質を海に蹴り込んで中断させてしまうんですが余計なことすんな、もっと見せてくれよという。大火編の中盤、張戦での殺陣であれだけで来たので、他の十本刀にもそれぞれ見せ場をと思うものの、同じだけ全員に振るのは時間的に無理だったかなと思っていたら、本条鎌足役の屋敷紘子さんのインタビューでは「実はそれぞれの役に立ち廻りのシーンがリハーサルも含めてあったんです」と。キャストの当て方は、殺陣を振られても十分にこなせそうな人を想定していたようなので、この辺はちょっと残念ですね。屋敷紘子さんは前掲リンクからたどって読めるインタビューもすべて興味深く、スタッフ・キャスト含めて東アジアのアクション映画につながる視野も入ってきます。こういう信頼できる人を固めるポジションに回すというのはよく分かります。

 時間的な制約で緩急つけづらいとこで、登場人物ほぼ全員が常時緊張状態にあるようなところは見ていて少ししんどく感じたのですが、瀬田宗次郎を演じた神木隆之介が力を抜いた片足のステップでリズムを取りながら見せる殺陣で主人公の剣を折るあたり、雰囲気の違いも含めていいコントラストになっておりなかなかのものでした。あれが力抜けてるのは(二重の意味で)演技なわけでもありますが。
 もったいないのは、やはり志々雄側の人間関係が単純化されてしまったせいで、魚沼宇水や悠久山安慈といった人たちが主体的に主人公側と対立するロジックを持てず、小ボス的な形で姿を消さざるを得なかったところでしょうか。時間とスケジュールがあれば殺陣も含めて彼らにより厚みのある見せ場があったんだろうなと。

 最後の敬礼は、主人公側もまとめて全員沈めても成立する、いや沈めてこそ成立するようなもので、決して感動的なシーンではないということが分かるように、ちぐはぐな雰囲気が意図的に描かれています。方治は乱戦過程で途中退場するわけですが、組織としての実態を失ってしまったがゆえに「理想の志々雄真実」の理念そのものと化して法廷闘争を行うべく決意を固めた方治に、拘束されるやいなや持ちかけられる裏取引というシーンがあると、敬礼の意味がより鮮明になるかとも思いますが、その辺は自分で補完しました。

『十三人の刺客』でも感じたんですが、場所さえ与えられればけっこう殺陣を出来る人はいるんだというのがあらためて確認できる意外な収穫でした。






るろうに剣心 伝説の最期編 通常版 [DVD]
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posted by すける at 22:52 | Comment(0) | 映画・演劇・ドラマ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする