2018年10月21日

『雷子』クロン

 TL上で隠れた名作として取り上げられていた『雷子』が、ボイスを落としたバージョンがふりーむで公開されたということでダウンロードしてみた。なるほど、怪作としてプレイする価値がある。

 ネット上でレビューを見ると武将女体化ものの三国志という今となっては新味の低い設定がいまひとつ購買意欲をそそらないという第一印象を、しかしそこから予想されるようなキャラクターを見せるためだけの話にせずに、史実を踏まえて死者が積みあがる悲劇的な流れを見せたうえで、圧倒的な展開でひっくり返すという構成力について、最終的に高い評価を下しているという声が圧倒的。一般的な知名度は低いが、実際にプレイした人は高揚しているという状態。

難攻不落三国伝完全リメイク-雷子- - 3DS
難攻不落三国伝完全リメイク-雷子- - 3DS


 まずはすでに荊州に劉備がいるという形で、黄巾や董卓といった序盤の展開は飛ばして、主人公はひょんなことから諸葛亮の弟子となる。だが、この作品では猛将を率いて薄氷を渡るような策をひねり出す諸葛亮と対になる軍師として、凡将と共に生き残る龐統像が提示される。しかも三国志にネタバレもクソもあるかとOPムービーでは矢に身体中を貫かれている龐統は直近での死を宣告されているのだ。だから、三国志を知らないプレイヤーにも、避けられないであろう死から逆算してしゃべっていると分かる龐統のセリフは、自分が持っているものを主人公へ全て渡していくという形。ブログではすでに三回龐統で記事を書いてるわたしには、この時点で抵抗できない展開だ。

 この点、諸葛亮の人事の危うさに触れる言葉を、ほぼ同時期に加入してくる魏延と馬謖への諸葛亮の対応の差で浮き彫りにし、その直後に龐統のサポートが入るなどという形で具体的に見せているあたりの作り方もうまい。

 やや割りを食う人格である馬謖も、机上の空論をもてあそぶ軽薄才子というだけではなく、定軍山の戦いに従軍し、夏侯淵の猛攻をその目で見たがゆえに、実践の中で敵から学ぶという姿勢を見せつつ、それが空回りして結果的に悪い事態を招くことになるという厳しい描写がよく描かれている。

 こうした中で関羽張飛たちも当然死んでいき、やがては五丈原で諸葛亮をも看取ることになる展開で、主人公は龐統の言葉を引き受けて、諸葛亮と龐統の弟子として蜀を背負って戦わなければならなくなる。


 伝奇部分については、ループ物と異世界転生物(主人公は「元の世界では平凡な少年」というわけではないので、一般的な定義とは性格が違うが)とをミックスした形で『反三国志』をやっていると言えて、ジャンルの傾向の影響も受けているのが感じられる。

 個人的には放埓な歴史改変に対する反発が実存的にあるのだが、先に何者かの手で史実より若干先行する形で歴史に介入されていることは三国志を多少知っていると分かるので、主人公が介入する側に回ることへの正当性が担保され、抵抗が薄れるようになっていることは、製作者自身にどれだけ意識されているかわからないが興味深かった。


 本編においての伝奇的展開に関して、主人公の二段構えの正体は、一段目が明かされたところで、二段目までも見当がついた。諸葛亮と龐統を合わせたような軍師は可能か?という問いへ龐統が答えかかるあたりが大ヒントだろう。だが「春秋→呉」「漢→魏」「殷周→蜀」という形で落ちてきていて、四部作が予告されている続編のことを考えると、三国まで問題が持ち越されている以上、すでに発売されている二部(春秋)と三部(漢楚)は全面的なグッドエンドにはならないことが推測され、四部の殷周で、一作目の展開を回収・適用して前後半に分けるような……と思っていたら、エピローグでは「封神演義」よりもう一回り大きいところを狙ってるかという感じも出てきた。ひょっとしたら封神榜体制に人間の側から再戦を仕掛けるような神狩り……。これは奇書(ゲームだけど)と言える水準だろう。

 あ、呉編では孫策や孫権が空から監視している巨大な眼の悪夢に悩まされているという描写とかあってもよかったかもしれない。勘のいいひとは、そこで呉の呪いの正体を察してしまうかもしれないが。

 またスピーディーな展開も特徴的で、次の戦いに移る際に「あれから〇年」という形ではなく、省略した部分の両端を結んで連続的につなぐ形で進めており、このスタイルはなかなか独特でテンポが良い。テキスト自体は必ずしも重厚であったり繊細美麗な文章というわけではないのだが、早い展開の中で要所を締めるように書かれていて、効果的である。小説の文章とは違う、ゲームの中でのテキストという視点で見ても面白い。


 SLG部分に関しては、慣れてくると重騎兵のずらしと騎兵の直線攻撃でのコンボなどが面白くなってくる作りで、シナリオの圧倒的な強さと比べると、普通に面白いという水準だが、工夫のし甲斐のあるものになっている。


『雷子』が予算が少ない中で作られただろうことは初見で見当がつくが、作り手側の熱量が直接プレイヤーに伝わる形であり、80年代後半のソフトハウスから作られたゲームから感じられる雰囲気がある。この作品に肩入れしたくなるレビュアーが多くいることは当然だという気がする。

 こんなゲームをフリーでプレイしてしまったのが申し訳ない、Steamで金落とせるようにしてほしいのだけれど。実際のところフリーでは声がなく、最初は別に必要ないと思っていたのだが、あの戦いをくぐり抜けたキャラクターの声が聴きたい。声を当てたのは比較的キャリアの若い人、経験の少ない人などが多いようだが、このゲームでそれがマイナスになるということはあまり考えられない。そして、サントラも聞きたいのである。


 そしてなによりも四部作完結させてほしいのだ。


雷子 - PS Vita
雷子 - PS Vita

タグ:三国志 雷子
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2018年10月07日

『八月のシンデレラナイン』のポジションを考える

 アカツキのソーシャル野球ゲーム『八月のシンデレラナイン』のポジションについて、ゲームならばそれぞれのプレイヤーがオーダーを組むことが出来ますが、大きなシナリオを書くにあたっては、やはり明確に選ばれなければいけないということで、おもにイベントシナリオの展開から、ゲーム上のパラメータなども参考にしつつ、考えてみたいと思います。

右翼手九十九伽奈宇喜多茜倉敷舞子逢坂ここ
中堅手竹富亜矢花山栄美中野綾香永井加奈子
左翼手本庄千景泉田京香柊寿葉塚原雫
遊撃手有原翼直江多結新田美奈子 
三塁手岩城良美東雲龍初瀬真里安 
二塁手坂上芽衣阿佐田あおい月島結衣河北智恵
一塁手野崎夕姫天草琴音朝比奈いろは秋乃小麦
捕手鈴木和香近藤咲仙波綾子椎名ゆかり



 まず、基本的なポジションはこのような割り振りになります。投手は各選手に振られているので書いていません。これはスカウトでピッチャーが出ないとゲームが成立しないことへの対応もあるでしょう。


 まずは蓄積がない新設の野球部にとっては経験者組が重要なメンバーとなります。野球、とソフトボールもそれに準じるものとして経験者とすると、有原翼、東雲龍、柊寿葉、坂上芽衣、朝比奈いろは、直江 太結、椎名ゆかり、経験というには微妙ですが知識のある鈴木和香といった選手が該当します。シナリオでは、初心者に経験を積ませるという形で練習試合では未経験者でオーダーを組むことも多いのですが、一年目の段階では本気の試合になるとこれらの選手が重用されることになります。ただし、直江太結は主人公の有原翼とショートでポジションがかぶり、また椎名ゆかりと鈴木和香が捕手で重なるため、別の要素が必要になります。



 これがシナリオであらわされるのは「彼女に秘められた力」で、一年目の学年末である春大会の基本オーダーはこのようなものでした。

倉敷舞子椎名ゆかり朝比奈いろは坂上芽衣有原翼東雲龍
 
柊寿葉竹富亜矢
九十九伽奈


 先述した直江と鈴木以外の経験者はすべて含まれており、二人もそれぞれのポジションの控えと考えられています。基本的にはここがひとつの中間的な結論でしょう。

 それでは、各ポジションのここまでとこれからについて、あれこれ考えてみます。あくまで個人的なプレイの範囲内で、入手していない選手のシーンなどについてはチェックできないという限界込みであることをお含みください。


投手 シナリオではとりあえず倉敷となりましたがここはかなり流動的で、春大会でも試合により有原や東雲が投げる描写があります。先にも書いたようにこのポジションはゲーム上では各選手に割り振られているため、絶対的な強みがある選手はいないと言えるでしょう。

 本来なら有原や東雲といった経験者が投げたほうがいいのかもしれませんが、このゲームのシナリオにおいては内野の守備こそ経験者で固めるべきというロジックでもって、彼女たちをファーストチョイスにはしないという方針で動いています。これはこれで説得力のある話です。それではライトに適性を持っている倉敷がなぜ投手として優先されるべきかというと、それまでのイベントシナリオにその根拠が求められるでしょう。
 まずシナリオ「流した涙のワケ」で、倉敷は先発投手として起用され、好投を見せるも交代を拒否した結果サヨナラを許して試合終了、ギスギスした感じで終わるという、けっこうな締め方をします。そしてしばらく後のイベント「ほどける心 涙晴れる日」で、ほぼ同じシチュエーションとなり、ああ、ここで取り返して回収するのかなと思いきや、またしてもサヨナラ負けという、なぜアカツキは倉敷さんにばかり試練を与えるのかというシナリオですが、負けてはいても内容も人間関係も前進しているというまとめ方で、これだけのドラマを与えられている以上、もはやメインの投手は倉敷さんで進めるしかないのでは。
 問題は、ゲームではその倉敷に今のところ恒常SSRの投手シーンが実装されていないこと。二年目の成長に期待、かな。

 中継ぎ、抑えに関してはまだシナリオ上での決定的な描写はないという感じです。小説から入ってきたエレナの中継ぎでの実装は、再転入という形で二年目のメインストーリーに採用されるかどうか、難しいかな。固有の決め球にすぴにんぐたーとるを持つ宇喜田、にゃんこボールを持つ阿佐田が、シナリオでは投げておらず、シリアスな展開になったときに整合性が取れるのかというあたりが気になるところ。また欲を言えば左投げ投手は欲しいので、まだ高いレアリティで投手シーンが実装されていない泉田や天草がいずれ食い込んでくることは期待したいところです。

 ところで、わたし自身のゲーム上の主力先発は最初に引いた恒常SSR直江たゆたゆなんですが、ソフトの経験を活かしてアンダースローで投げるというけっこう格好いいシーンなものの、シナリオでは投手として活躍する場面はそれほど多くありません。今後、チャンスは欲しいところ。

捕手 このポジションは本来なら経験・知識のある椎名と鈴木が争うべきでしょう。ただし、椎名はシンデレラシリーズの椎名姉妹を継いでいるとは思えない(あるいは継いでいるゆえの)メンタル面でのけっこうな爆弾を抱えた選手であり、決定的なきびしい場面での応対に現時点では疑問があります。鈴木は知識はあるもののその知識に振り回される場面も散見され、体力面でも不安があるという描写があり、フル出場はどうかというところ。
 ここで出てくるのが未経験者の仙波で、そもそもメインの投手と想定した倉敷と先述のシナリオ2試合でバッテリーを組んだのも彼女であることが注目されます。仙波は、やはりメンタル面でぶれやすい倉敷にコミュニケーションをとっていける選手であり、経験の無さゆえに配球で悩む場面もありますが、逆にそこは経験によって解消していけるところでしょう。なお、この文章は仙波ちゃんを推したいという私情によって書かれています。

 投手倉敷を前提とした構えで基本的に仙波がバッテリーを組み、有原が投手に入るタイミングで、メンタル面での問題を解消した椎名が出てくるという展開がありうるかなと。鈴木は参謀としてベンチで存在感を出すというのはどうでしょうか。このポジションには近藤もいるのですが、シナリオではこの三人を押しのけて近藤で行くべき積極的理由というのがまだ見えてきません。唐突に春大会でピッチャーの控えとして起用されるのは、本来のポジションでの難しさの反映という側面もあるかも。
 なお、バッテリーでチームスキルが付くのは現在では有原−椎名組のみ、倉敷−仙波組の実装もお願いしたい。


一塁手 経験者は一本足打法に憧れる朝比奈の頭が抜けています。春大会の補欠は機敏な小麦。とはいえここにはヒロインクラスの一角である野崎がおり、物語的には引っ込んだままではいないだろうなという気もします。楽しくやりたいという野崎の最初の思いと、勝つために厳しくというという何人かの主力の姿勢との緊張がどう解消されるかというあたりから、ポジションに食い込んでくるでしょうか。本来なら美術部にいるような天草は現状では出場は厳しい感じ。


二塁手 ここも経験者坂上がリード。ただし、その過去にいろいろあって、最新のシナリオを読むと、なかなか大変です。春大会での補欠は超師匠阿佐田と河北ですが、超師匠はムラがあるためか試合描写からは離れ気味。準決勝では坂上の負傷に交代で入ったのは河北でした。またデレストはパラレルな要素があるので、今回はあまり言及しない方針ですが、春大会の展開を考えると清城高校とのデレストは一番本編に近いのかもしれません。主人公の親友として河北が一年目の最後に活躍することになるので、このあたり今後どう食い込んでくるかという感じです。委員長月島は紅白戦での審判とかそういう役を振られることも多く、スタメンは難しそう。


遊撃手 主人公有原で決まり。これが外れるのは負傷欠場の類か投手に回る時くらいでしょう。その場合には穴を埋めるのはソフトボール経験者たゆたゆで。ゲーム的に代打のスキルを持っているシーンもあるので、物語でもそうした起用もあるかも。となると、経験なしの新田が厳しい。とはいえ、努力するという方向に振るシナリオが用意されており、経験者組は投手に入ることもあるので、そのタイミングにチャンスはありそう。


三塁手 マウンティングガール東雲で決まり。もっとも考慮の余地がないポジションかもしれない。これも有原と同じく投手に入るシナリオ以外では他の選手にチャンスは少ないのでは。しかも、東雲には対になる捕手の描写がシナリオではまだ存在せず、現状ではドラマ性が低いので、そちらでの起用は少ない気がする。控えとしては初瀬で問題のない感じ。団長岩城は、貴重なムードメーカーで、物語ではそのまま応援団長でもいい気がする……。


左翼手 経験者柊で。ただし柊は有原・東雲と並ぶ本格的な経験者の位置づけだけれど、どこか不幸そうなにおいがする(偏見)ので、何かのアクシデントでポジションを譲るというのはありそうな気がしないでもない。では誰かというと、春大会での控えは打撃のある塚原というところで、「込める信念 繋がる絆」で気を吐いた泉田が追う感じでしょうか。本庄先輩はクリケット経験者というので割り込むのは難しいか。人間関係の整理役というところで。


中堅手 経験者なしのポジション。センターだよ?シナリオでは元陸上部で脚のある竹富と守備の数値が高い新聞部の中野が争う形で、シナリオでは竹富がわずかにリード、わたしの場合ゲームでは守備力の高い中野をここのところ起用している。ゲーム上、センターの守備の数値はチームスキルに関わるため重視したい要素になる。強打のある永井も採用したいところだが、守備の問題がある限り使いづらい。これはシナリオでも言及あり。指名打者制度があれば……。適性ポジションを変えるべきではという話は残念だが出来ないっぽい。そもそも入部したことが奇跡ではないかというギャル花山はセンターとしては強みがないのだが、投手を試してみるシナリオがいくつかあり、今後は本番でもワンポイントリリーフなどでの起用もあるのかもしれない。


右翼手 野球の経験者ではないが、様々な部活を渡り歩いてレギュラーを奪取しては去っていくという、破格の大天才九十九君でほとんど決まり。倉敷はほぼ投手として扱うというのがこの文章の趣旨なので残り二人。ここで一人だけ入部の動機がほかの選手と明確に違う、ヒロインの一角、宇喜田が前に出て、逢坂ここちゃんはにぎやかしかなと思いきや、「勝ち取るべき居場所」では「いつも勝っている人には負けたくないよ!」という「死ね!名演奏家、死ね」のごとき闘争心を見せて九十九君とのポジション争いに打って出る形に。物語に参加する資格があるのだということを示しました。当初「野球」が目的ではなかった宇喜田が、やがて「野球」を目的にしていくという流れを見せていくという展開からどうなるか。


 各ポジション、とりあえずこんな形の感想で。

 あとは、二年目の新入生をどうするのかというところですが、現在のところ動きがないですね。まあ、採用したら、キャラクターの数が跳ね上がるわけで、既存の選手とあわせて処理できるかという問題をクリアできるのかどうかでしょうか。


 ハチナイのイベントシナリオは、時系列をばらして展開していて、大きなものでは創部年度末の春大会での優勝の後に、創部直後の夏大会の敗北を描くといった、迂遠にも見える構成になっているのですが、これは一年かけてキャラクターの描写を積んできたからこそ敗北やそれぞれの選手の精神的な動揺を正面から書けるようになったと言うべきで、ここまで来て、創部直後にメインストーリーの進行を一度止めて、夏に起こったことをややあいまいな形にしながらイベントを重ねてきた意味が分かったという感じです。『シンデレライレブン』からアカツキでプレイしているわたしも、これだけ丁寧なことが出来るのかとちょっと驚いています。

 また、公式のサイトに掲載されている、片瀬チヲル氏による短編は、現在12人分で止まっていますが、残りの選手も含めた加筆で一冊にまとまってほしいところです。

 二年目には上級生組が三年生になるわけで、大きな決着をつけるためのカウントも始まっているとは思いますが、しっかりと完走してもらいたいと思います。

 



八月のシンデレラナイン 北風に揺れる向日葵 (ファミ通文庫)


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2018年10月03日

『超動く家にて』宮内悠介

 宮内悠介『超動く家にて』読了、というかちょっと前に読めていたのだけれど、PCが壊れて間が空いてしまった。

超動く家にて 宮内悠介短編集 (創元日本SF叢書)
超動く家にて 宮内悠介短編集 (創元日本SF叢書)


 表題作である「超動く家にて」をはじめ「法則」「エラリー・クイーン数」など三篇は法月綸太郎『ノックス・マシン』と併せて読みたいSFミステリ短編である。とりわけヴァン・ダインものの「法則」は嬉しい作品だ。
 これは板垣恵介の画と演出で脳内再現するしかない巻頭の「トランジスタ技術の圧縮」に、村上春樹でギブスンをやる「クローム再襲撃」といった本歌取り・パロディ感のある作品で才気を見せてくれるのも楽しい。
 ローテクの遊戯として、野球盤を扱った「星間野球」は対戦プレイの中でルールとルールの逸脱のはざまでゲームを成立させるやりとりの妙味を見せてくれるし(でも、消える魔球で、初見のプレイヤーが「ふざけるな」というのは当然だよな)、MSXが重要な役割を果たす「エターナル・レガシー」は胸が熱くなる。MSX3部作はぜひ完走してもらいたいところだ。

 収録諸作品の発想の元となったネタは多くあとがきで明かされており、そこからの展開は非常にテクニカルに作品化されていて、しかもバラエティに飛んでいる一方で、この短編群には器用さだけで構成されたのではない、たしかに一人の著者が書いたのだということが感じられる問題意識もある。物語る機械をめぐっての個別の作者と読者が立ち上がってくる「アニマとエーファ」はその辺りで鍵になるかもしれない。
 恋人たちの逃避行が次々とヘンテコなハイカーを拾って珍道中と化していきながらやがてそれぞれの人生にあらためて向き合うことになる「ゲーマーズ・ゴースト」の人間観のバランスの取れ方は最近なかなか見るの難しいような気もする。気持ちのいい、よい短編集。


ノックス・マシン (角川文庫)
ノックス・マシン (角川文庫)
タグ:宮内悠介
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